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農業初心者の海なし県民が周防大島町で感じたこと。周防大島移住・お試し暮らし体験記(群馬県在住・中嶋さん)

農業への興味ーお試し移住を始めるまでー

私は2022年9月まで工場の職員として働いていました。それまでも何度か転職していましたが定年まで続けられる職に就きたいと思っておりました。地元では有名な企業だったため、入社当時は正社員になって会社に貢献できることへの希望をもっていました。しかし働き続ければ続けるほど利益向上への意欲があまりうかがえない実態が見えてきて、仕事へのやりがいの喪失とこれ以上自身の能力や生活の質の向上が望めないのではないかと思い5年の勤務の末に転職を考えるようになりました。

転職先を考える上で企業への就職という選択肢は考えられなくなっており、ふと思ったのが「自然の中での暮らし」。どんな仕事があるのか検索するなかで農業、猟師、漁業、酪農の道があることを知りそれらの仕事で生活できるほどの収益は出るのかどうかなど、色々と気になるようになってからその道へ動くために退職。興味の赴くままに狩猟免許(わなのみ)も取得しちょうどその頃に東京都で開催されたふるさと回帰フェアへ行ってみたりもしました。

とりあえず農業に触れることが最優先だと思い仕事を探していく中で、こんにゃく芋農家さんとご縁があり10月からの2か月間こんにゃく芋の掘り取りのアルバイトを体験しました。群馬では平野部では主に米、山間部ではこんにゃく芋やきゃべつ、ほうれん草などの生産が盛んです。アルバイトではコンバインでの芋の掘り起こしをした後の木子と売り玉の選別を行いました。広くてふかふかの土の上で畝をまたぎながらの往復、どんな作業着が必要なのか、寒さとの闘い、雨天の翌日は湿った土の上での作業、休日は基本的に無し等々…すべてが初めての経験。ひたすらに農業の現実を受け入れながら自然のなかで働くとはこういうものかと思いながら働いていました。

その期間中、私が一方的にSNS上で知っていた(集落支援員の)さかえるさんが『後継者を探しているみかん農家さんがいる』といった内容を発信していてとても興味がわきました。自分がやりたい作物はまだ何も決まっていない状態でしたが、もし果樹栽培を始めるとしてもその樹木が育つまでの期間が必要になりそれが省かれるならいい話だと思ったからです。そこでさかえるさんとコンタクトをとりお試し移住の存在を知り応募してみました。

体験できたことー仕事・農業面ー

私は沖家室島にある島暮ら荘別館にての滞在でした。お世話になったみかん農家さんは周防大島町の佐連という地域の桑原さん。さかえるさんと滞在前からzoomで気になることを聞けたり滞在先に関する資料や手続きなどもスムーズに行っていただき、不安はそれほど抱えずに臨むことができました。

到着後も自治会長さんや桑原さん、島暮ら荘の近所の方々へも繋いでくださり自分の存在を周知してくださったので、壁を感じることなくコミュニティへ混ざることができました。初日はご近所の方やさかえるさんから新鮮なお魚や卵やさつま芋の差し入れをいただき漁師町である沖家室島の食を体験できたことは、海のない群馬県民にとってはとてもありがたいことでした。

桑原さんとの作業は私のために残してくださっていたみかんの摘み取り作業と肥料を撒く作業でした。青島みかん、せとみ、文旦など一つの農家さんでも様々な種類を生産できることや使用している肥料や道具、倉庫も見せていただいたり、みかんが入ったコンテナも重くてけっこう力仕事だと実感しました。

そして農地の立地が急傾斜。さかえるさんの農作業もお手伝いさせていただきましたが、この急傾斜で行う作業の大変さはやはり現地に来なければわからなかったこと。土地の場所によって作業の効率化に対する工夫が必要になることも感じました。

桑原さんはJAに出荷しており収入の主な財源は年金。みかんだけでは生計を立てるのは難しいこともわかりました。もしみかん農家を継ぐとなったら他の作物を栽培して一緒に売るか、兼業で別の収入源をつくることになりそうだなという道筋も見えました。

作業のお手伝いのほかにも、若手の個人事業主の方々とのランチ会や移住者の方が営むカフェ、民宿の経営をされている方やイノシシ猟を積極的にされているご夫婦、みかんだけで生計を立てているご夫婦、かんきつ振興センターの職員さん、みかんとお花を兼業されている農園の方など、縁が縁を呼び周防大島での生活をする際の選択肢を色々と見聞きさせていただきました。

みかん農家をする上でも無農薬か有農薬か。直売か農協への出荷か。専業か兼業か。色々と選択肢が出てきますし実際にいずれの販売方法、生産方法もしている方は居ます。商品としても国産の無農薬というものは需要があるらしく、虫がつくし見た目も悪くなる無農薬栽培に対して一概に否定もできません。

また農協への出荷は生産者へ渡る賃金が多くはないことなどで良く言われないこともありますが、販路を自分で探す必要もなく苗木購入の補助などもある等メリットもある。その反面、直売をされているご夫婦とのお話で印象的だったのが「直売は自分のみかんとして売ることができる」というお言葉でした。農協に出すと周防大島産のみかんとしてしか知られないけど、せっかく愛を注いで作ったものだから「○○家のみかん」として売りたかったと。私もこの言葉には共感しました。

そして兼業をするとしたら何をするかという点においてもこの地にはいくつか選択肢があり主軸としては会社勤務やアルバイト、他の作物を作って販売しながら土日みかん農業があります。兼業で印象的だったのが全国的にも生産数が少ない種類の花木の生産者さん。市場の取引先も増える一方だそう。他がやらないことを見つけてライバルの少ないもので勝負するというお考えでしたがそういう仕事の探し方も有りだと感じました。

みかん以外の作物を作る上で農地が必要になりますが、高齢化が進んでいる影響で「使ってくれるならいくらでも貸す」と仰ってくれる方はいます。雑木雑草の刈り取りや土地の耕作などゼロからの手入れが必要になりますが土地があることの安心感は大きいです。

野菜、みかんいずれをするにしても周防大島には営農塾という栽培を学べる事業があります。これは初心者には心強いと思いました。年間の費用も安く通うのは月に一度。生産計画を立てるところまで手伝ってくれます。もし移住したら利用したいです。

体験できたことー住居面ー

空き家の見学もさせていただけました。過疎化や人口減少が進んでいるようで空き家はたくさんあります。しかしながら住む前に要リフォームでしかも床張りや壁の張替え等々ほぼ最初から手を加えないと住めないような状況の家屋が多いです。

あとは造りが拡大家族向けの古民家が多い印象で一人で移る予定の私にはどこも大きかったり現実的に住むイメージがわきませんでした。経済的に余裕のある方には買い取ってリノベーションするなり取り壊して建て替えるなりの選択肢は有りだと思います。

地域によって上下水の整備が届かない場所もあること、日当たりも南向きか北向きかで温かさやみかんへの影響が変わることなど、外部の人間には知りえない事情も役場の方から聞けました。

もし住むとしたら描けること

周防大島には海と山の両方があるので高い場所からも海を見れるという素敵な環境があります。私の趣味である音楽とリンクさせて、その環境を利用して店を建てて自分が栽培した作物を提供しながら海が見えるライブバーなどの飲食店を営むことができるなぁと感じました。家を建てるにしても海が見える場所でゆったり過ごせるような環境を手に入れやすい気もします。

温暖な気候や段々畑の地形を利用して柑橘類の生産や野菜の栽培はしたいです。販売するとしたら自分の顔と責任で直売が良い。

都会には普通にあるけど周防大島町には無い事業もあります。そういう点では新規事業の参入には向いてる場所だとも思うし受け入れる懐もある町なので農業以外の事業をはじめるという夢も持てると感じました。

おわりに

今回のお試し移住を通して聞けば惜しみなく答えてくれて教えてくださる同志や先輩方がいること、同じ土地で同じものを作るにしても手段は選ぶ余地があること、住む場所や農地の場所選びはとても大事だということ、新規参入の余地もある町だということを知れました。住んでらっしゃる方から直接お話をうかがえたことや空き家の現状を見れたことは現地に行かなければできなかったことです。

お試し移住をする前はそのまま周防大島で仕事を探して住んでもいいのかなぁなんて考えていたりもしましたが、他ともいくつかくらべたほうがいいという意見もいただいたり11日間でこんなに現地の暮らしがわかるのなら他の地域へもお試し移住をしてみたいという気持ちも強まりました。

2泊3日などの行程で短期移住を組んでいる自治体もありますがそれではなにも見られないこともよくわかりました。じっくりとお話をうかがうことや体験する時間をつくるうえでも最低でも7日から14日間は必要だと感じました。

色々と手配してくださったさかえるさんをはじめ、桑原さんや役場の方々やお話を聞かせてくださった移住者の方々のおかげで有意義なお試し移住を体験することができました。ありがとうございました。

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